大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和55年(ワ)3590号 判決 1982年11月12日

原告 甲野花子

右訴訟代理人弁護士 小野幸治

同 森井利和

被告 岩崎通信機株式会社

右代表者代表取締役 林新二

右訴訟代理人弁護士 高島良一

右訴訟復代理人弁護士 西本恭彦

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の申立

一  原告

1  被告と原告との間に雇用関係が存在することを確認する。

2  被告は原告に対し金一三〇万六二五九円およびこれに対する昭和五五年三月二六日から完済に至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

3  被告は原告に対し昭和五五年四月以降毎月二五日限り各金一〇万七三〇〇円およびこれに対する右各月二六日から完済に至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

4  訴訟費用は被告の負担とする。

5  右1を除く部分につき仮執行宣言。

二  被告

主文と同旨の判決。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  被告は、肩書地に本店をおく電気通信機および電気機械器具の製造、販売、修理等を目的とする株式会社であり、原告は、昭和四八年一二月一八日被告に雇用され、被告の久我山工場通信製造一課に勤務する従業員である。

2(一)  被告における賃金は前月一六日から当月一五日までの分を当月二五日に支払う定めであった。

(二) 原告の昭和五三年五月六日当時における賃金は本人給(基本給)が一か月金九万五〇〇〇円、住宅手当が金五〇〇円であった。

(三) 被告は、同年四月一日から次のとおり賃上げを行った。

(1) 前年度月額賃金中、本人給の三・一パーセント

(2) 一律金一〇〇〇円

(3) 年令二五歳、昭和四六年高校卒業で途中入社の女子の場合は調整給として金二一〇〇円

以上の合計額を前年度月額賃金に加算する。

(四) 被告は、昭和五四年四月一日から次のとおり賃上げを行った。

(1) 前年度月額賃金中、本人給の三・一パーセント

(2) 一律金一〇〇〇円

(3) 年令二六歳、昭和四六年高校卒業で途中入社の女子の場合は調整給として金一七〇〇円

以上の合計額を前年度月額賃金に加算する。

(五) 右によれば、原告が保釈されて就労可能となり、したがって休職事由の消滅した昭和五四年五月一八日以降の原告の一か月分の賃金は、本人給金一〇万六八〇〇円、住宅手当金五〇〇円の合計金一〇万七三〇〇円である。

(六) したがって、昭和五四年六月分の原告の日割賃金計算は次のとおりである。

(本人給+住宅手当)×20/23

(106,800+500)円×20/23=93,304円

同年七月分から昭和五五年三月分までの賃金の合計は次のとおりである。

(106,800+500)円×9か月=965,700円

以上合計金一〇五万九〇〇四円が原告の昭和五四年七月分から昭和五五年三月分までの未払賃金である。

(七) 被告の昭和五四年度末一時金は、次の計算により同年一二月に支払われることが被告の従業員で組織されている全日本電機機器労働組合連合会岩崎通信機労働組合(以下単に「組合」という。)と被告との間の協定により決定される。そして、原告は右組合に加入している。

(昭和54年4月1日現在の本人給)×1.853+(年令別一律分)+(査定分)

右協定により原告に支払われるべきであった同年度末一時金は次のとおりである。

(106,800円×1,853+34,382円+14,973円=247,255円

3  しかるに、被告は原告を昭和五三年一一月七日原告に到達した書面により解雇したとして、原告を被告の従業員として認めず、賃金の支払もしていないので、被告に対し、原告が雇用契約上の権利を有する地位の確認と、昭和五四年六月分の日割賃金九万三三〇四円、同年七月分から昭和五五年三月分までの賃金合計金九六万五七〇〇円および昭和五四年一二月支給分の一時金二四万七二五五円の総計金一三〇万六二五九円とこれに対する最終支払日の翌日である昭和五五年三月二六日から完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金ならびに昭和五五年四月以降毎月二五日限り各金一〇万七三〇〇円の賃金および住宅手当とこれに対する各支払日の翌日から完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める。

二  請求の原因に対する答弁

1  請求の原因1の事実は、原告が昭和五三年一一月八日以降も被告の従業員であるとの点を除いて認める。

2  同2(四)の昭和五四年度賃上げについては、被告は、同年四月一九日組合と締結した協定に基づいて同年度における組合員のベースアップを実施した。その計算式は次のとおりである。

(①昇給前本人給×0.031×〔②出勤日数による支給係数〕)+1,000円+③是正+④扶養給増額=⑤昇給額

仮に原告が在籍していたとすると

①=一〇万一〇〇〇円

②=一二か月欠勤により六二パーセント保障で一九四一円

③=水準補正 昭和四六年高校卒に該当し一七〇〇円

④=零、なお昇給額の端数は五〇円未満切捨て、五〇円以上は切上げて一〇〇円単位となる。

⑤=一〇万五六〇〇円

同2(七)の昭和五四年末一時金については、被告は、同年一一月二二日組合と締結した協定により、同年末一時金を組合員に支給した。

仮に原告が在籍していたとしても、右一時金の算定期間は、同年五月一六日から同年一一月一五日までであるところ、原告が同年五月一八日まで勾留されていたので、この間は欠勤控除の対象となる。これによって計算すると次のとおりである。

(本人給〔105,600円〕×本人給リンク分〔①前従業員一律1.853か月分〕)+②年令別一律(34,382円)+③査定(14,973円)-欠勤控除(時給2時間分〔636円×2〕×欠勤日数〔3日〕)=241,216円

①②③の数値は原告主張のとおりであり、④は協定による。

なお、原告が昭和五三年一一月七日以前組合に加入していたことは認める。

三  被告の主張

被告は、原告に対し、昭和五三年一一月七日到達した内容証明郵便により原告を解雇する旨の意思表示をした(以下単に「本件解雇」という。)。右解雇は、以下の理由により有効なものである。

1  休職処分について

被告は、昭和五三年五月六日、原告を休職処分に付したものである(以下単に「本件休職処分」という。)が、その理由は次のとおりである。

(一) 原告は、同年三月二三日、被告に対し、同月二七日から三一日までの間の年次有給休暇届を提出してその間欠勤したが、その後も欠勤を続け、同年四月三日になって、被告に対し休暇届と題する書面を提出してきた。同書面には「四月三日より」との記載があるだけで、欠勤の期間、理由等は全く記載されていなかった。被告は、右書面を原告に最も有利に取り扱うこととし、当時原告がなお二日間の年次有給休暇の権利を有していたので、同月三日、四日を年次有給休暇扱いとし、同月五日以降は原告が傷病以外の理由による欠勤(被告の就業規則((以下単に「規則」という。))四〇条二号にいう事故欠勤)をしたものとして取扱った。

(二) 被告は、原告が同年四月六日以降も事故欠勤を続けたので、それから一か月を経過した同年五月六日、被告と組合との間で締結した労働協約(以下単に「協約」という。)三一条二号(規則四〇条二号も同じ)に定める「本人の傷病以外の理由により一ヶ月以上欠勤した場合」に該当するので、原告を同年一一月六日まで休職とした。

(三) ところで、規則四〇条但書は事故欠勤による休職の場合には、改めて本人に休職の示達をしない旨定めているので、原告は当然右の定めを承知しているところから、被告は原告に対しその旨の示達をしなかったものであり、右により本件休職処分は同年五月六日にその効力を生じたものである。

のみならず、原告は同年一一月六日休職期間が満了になることを知っていて、同年一〇月組合を介して休職期間の延長を求めているのであるから、本件休職処分を知り、少なくともこれを追認していると解すべきであるから、仮に本件休職処分に手続上の瑕疵があったとしても、原告はその無効を主張し得ないものである。

(四) ところで、被告が原告の欠勤を事故欠勤としたのは、次の理由によるものである。

原告は、被告との間において労働契約を締結しているものであるから、被告に対し労務を提供すべき義務を負い、その不履行については、それが原告の責に帰すべからざる事由によるものであることを明らかにしない限り、被告に対しその責を免れることができないものである。しかるに、原告は休職期間が経過するまで前記欠勤の事由を明らかにしていない。したがって、被告が原告の欠勤を事故欠勤として処理したのは正当である。

のみならず、原告は、昭和五三年三月二六日、多衆の者とともに、実力をもって成田空港の開港を阻止する行動に参加し、その際公務執行妨害等の現行犯として逮捕され、引続いて勾留され、同年四月一六日公務執行妨害罪等の公訴事実により起訴され、その後も引続いて勾留されたため、前記欠勤を続けたものである。そして、右の逮捕、勾留を違法とすべき理由はない(ちなみに、原告は右によりその後有罪判決を受けている。)から、右の欠勤は原告がみずから招いたものであり、その責に帰すべき事由による欠勤というべきである。

2  本件解雇について

本件解雇の理由は次のとおりである。

(一) 規則四四条三号、協約三三条本文には、事故欠勤によって休職となり、六か月の休職期間が経過(満了)(以下「経過」という。)したときは、被告は休職中の従業員を解雇する旨規定されている。そして、原告が前記のとおり本件休職処分をした昭和五三年五月六日以降も事故欠勤を続け、協約三一条二号(ロ)(規則四一条二号(2))に定める休職期間である六か月を経過したので、被告は規則四四条三号により本件解雇をなしたものである。

(二) 右のとおり、規則四四条三号、協約三三条本文の規定は、休職期間の経過により解雇する旨定めているので、解雇の時期が特定されている。労働基準法(以下単に「労基法」という。)二〇条は期間の定めのない労働契約の解約告知に関する規定であるから、右のごとき休職期間の経過による解雇の場合には適用されないものである。

のみならず、本件解雇は、原告の責に帰すべき事由による解雇であるから、即時解雇をすることができるものである。

よって、本件解雇は労基法二〇条に違反するものではない。

(三) もっとも、規則四四条は、休職期間が経過したことを理由とする解雇の場合であっても、一か月以上前に本人に予告するか、三〇日分以上の平均賃金を支払う旨規定している。この規定は、労基法二〇条に定める以上の利益を従業員に与えたものである。そうであるから、右規定は、解雇についての効力規定ではなく、被告が即時解雇した場合は、平均賃金の三〇日分以上を従業員に支払うべき労働契約上の義務を被告が負うにとどまるものと解釈すべきである。したがって、本件解雇に際し、被告が予告期間をおかず、また予告手当を支払わなかったことをもって、本件解雇が規則四四条に違反し無効であるということはできない。

(四) 被告は、原告がその受領を拒絶したので、昭和五五年八月二三日、東京法務局に原告の平均賃金三〇日分とこれに対する昭和五三年一一月七日から同五五年八月二三日までの年五分の割合による遅延損害金合計金一一万六三三円を弁済供託した。

(五) 仮に本件解雇につき労基法二〇条の適用があるとしても、本件解雇は次の理由により有効である。

(1) 本件解雇は、前記のとおり原告の責に帰すべき事由による欠勤であるから、原告の責に帰すべき事由による解雇である。もっとも、被告は本件解雇につき労働基準監督署長の除外認定を受けていない。しかし、労基法が右の除外認定を受けなければならないと定めているのは、使用者が労働者を解雇しようとする際に、自己の主観的な判断に基づいて即時解雇をなしうる事由があるとして、不当に予告手当の支払を拒むことを防止するためである。換言すると、除外認定を受けさせることによって、使用者を指導・監督し、労働者の保護を図るものである。

そうだとすると、労働基準監督署長の認定は、事実の確認にほかならず、それ自体として、使用者になんらの権利・義務を生じさせるものではない。したがって、使用者が除外認定の申請をせず、もしくはその申請をしたが認定を受けられないまま解雇した場合でも、客観的に除外認定の理由となる事実が存在すれば、使用者は予告手当を支払う義務を負わない。かかる場合であっても、規則四四条により三〇日分以上の平均賃金を支払うべき義務があるとしても、被告は前記のとおりこれを弁済供託した。

(2) 本件解雇が原告の責に帰すべからざる事由によるものであるとしても、解雇の意思表示をした日である昭和五三年一一月七日から起算して三〇日を経過した日に本件解雇の効力は生じている。使用者が労基法二〇条所定の予告期間をおかず、又は予告手当の支払をしないで解雇した場合、これは即時解雇としては効力を生じないが、使用者が即時解雇を固執する趣旨でない限り、解雇後同条所定の三〇日の期間を経過するか、又はその後に同条所定の予告手当の支払をしたときは、そのいずれかのときから解雇の効力を生ずるものであり(最二判昭和三五年三月一一日民集一四巻三号四〇三頁)、被告は本件解雇につき即時解雇を固執するものではない。なお、予告手当の弁済供託もしていることは前記のとおりである。

四  被告の主張に対する原告の認否、反論

1  認否

(一) 被告が原告に対し、本件休職処分および本件解雇をしたことは認める。

(二) 被告の主張1の(一)、(二)の事実は認める。

(三) 同1の(三)の事実中、規則四〇条但書に被告主張のような規定があること、被告が原告に対し本件休職処分の示達をしなかったことおよび原告が組合を介して昭和五三年一〇月被告に対し休職期間の延長を求めたことは認めるが、その余の事実は否認する。

(四) 同1の(四)の事実中、原告が昭和五三年三月二六日、成田空港の開港を阻止する闘争に参加し、その際公務執行妨害等の現行犯として逮捕され、引続いて勾留され、さらに同年四月一六日、公務執行妨害罪等の公訴事実により起訴され、その後も引続いて勾留されるに至ったため欠勤を続けたことは認めるが、その余の事実は否認し、主張は争う。

(五) 同2の(一)の事実は認める。

(六) 同2の(二)の事実は否認し、その主張は争う。

(七) 同2の(三)の事実中、規則四四条に被告主張のような規定があることは認めるが、その主張は争う。

(八) 同2の(四)の事実は否認する。

被告の主張する弁済供託が予告手当であるか賃金であるかが不明確であるばかりでなく、それが予告手当であるとすれば、本件解雇に際してのものではなく労基法二〇条、規則四四条に違反し、これを潜脱しようとするものであり、またそれが賃金であるとすれば予告手当を支払ったことにはならないので右同様労基法二〇条、規則四四条に違反するものである。

(九) 同2の(五)の事実中、被告が本件解雇につき労働基準監督署長から労基法二〇条所定の除外認定を受けていないことは認めるが、その余の事実は否認し、その主張は争う。

2  反論

(一) 本件解雇は、協約、規則上の休職に関する規定に違反する。

被告は昭和五三年五月六日付で原告を本件休職処分に付しているが、同処分は以下の理由により無効であり、したがって、これが有効であることを前提とする本件解雇も無効である。

(1)(ア) 休職とは、従業員としての地位を保持させたまま一定期間就労を禁ずる制度であって、単なる労働者の労務提供不能とは異なり、使用者による就労禁止という処分を予定している。したがって、それは労働者に対する休職の意思表示を必要とするものである。このことは、協約からも読み取れるところである。すなわち、協約三一条の冒頭には「休職を命ずる」と規定されており、この「命ずる」とは命ぜられる相手方を予定する文言であって、単に休職の取扱いをするだけであれば「休職とする」という文言である筈である。したがって、本件休職処分についてはその旨の意思表示を必要とするものである。

さらに、休職は前記のとおり、単なる労務不提供とは異なり、使用者の特段の処分であって、第一に、協約三一条二号(ロ)は傷病以外の理由による一か月以上の欠勤を理由として、その事由の存続期間ではなく、六か月という一定期間を区切った休職を定めている。すなわち、右期間中に休職事由が消滅した場合には当然に復職するものではなく、「復職させる」(協約三二条)という被告の行為がなければ復職できず、かかる被告の行為がない限り復職できないことになっている。第二に、休職期間中は無給である(規則四一条)。第三に、休職が解雇に直結している。すなわち、規則四四条三号は、休職期間の経過を解雇事由として掲げている。以上によれば、休職そのものが労働条件に大きな影響を及ぼすものであるから、休職については労働者に対する意思表示を必要とし、意思表示の到達が休職の効力発生要件であることは明らかである。

(イ) しかるに、被告は本件休職処分につき、原告に対しその旨の意思表示をしておらず、したがってこれが原告に到達もしていないものであるから、本件休職処分はその効力を生じていない。

(2) 原告のように、刑事事件による逮捕、勾留のため就労不能となった場合は、原告の責に帰すべからざる事由によるやむを得ない就労不能であるから、規則四〇条二号にいう「事故によって」欠勤した場合には該当しないものである。しかるに被告は、規則の同条号に該当するとして本件休職処分をなしているので、同処分は無効である。

(3) 仮に、原告に対し休職処分をなしうるとしても、原告の就労不能事由の性格、規則所定の各休職処分相互間の効果の比較均衡の点から、原告に対しては、規則四〇条二号の事故欠勤休職ではなく、同条三号の起訴休職が考えられるだけである。すなわち、

(ア) 原告の就労不能は刑事事件による逮捕、勾留のためであるから、ことの性格上まさに「刑事訴追を受けたとき」に相当する。

(イ) 起訴休職においては、その期間について一定期間を定め、期間の経過と同時に退職とする旨の規定がないが、事故欠勤休職においては、規則四一条二号所定の三か月(勤続三年未満の者)又は六か月(勤続三年以上の者)という短期間で、有罪判決が確定する以前に雇用契約を当然終了させてしまうことになり(現に原告は六か月の経過によって解雇された。)、起訴休職の場合と対比すると著しく不均衡である。

(ウ) 右(ア)、(イ)における主張は、仮に原告を休職処分に付しうるとした場合における事故欠勤休職ではなく、起訴休職が考えられるというものであって、起訴休職が被告の裁量権の行使として是認されるかどうかはまた別の問題である。そして、原告の職務の性質、公訴事実の内容等からみて、原告を就業させたとしても、それによって職場秩序が乱され、企業の社会的信用が害され、職務遂行上支障をきたすというような事情は殆んど考えられない。したがって、仮に原告に対し起訴休職処分がなされたとしても、原告が保釈によって身柄拘束を解かれた後は起訴休職処分を維持する合理性は消滅するものである。かかる点からも、原告にとっては事故欠勤休職と起訴休職とではその不利益性において大きな相違がある。

(エ) 仮に起訴休職とされ、原告が保釈されたとしても当然には同処分が解かれないとしても、その期間は事故欠勤休職期間の三か月又は六か月よりはるかに長期間となることは明らかであり、休職期間中ではあってもその二分の一の期間は勤続年数に通算される(規則四二条本文)ところからみても、原告にとっては起訴休職より事故欠勤休職の方がはるかに不利益を受けることとなる。

(オ) 以上(ア)ないし(エ)のとおり、原告に対しては仮に休職処分に付するとしても起訴休職とするか否かが検討されるべきところ、これがなされず、原告にとっては起訴休職の方が事故欠勤休職よりはるかに有利であるにかかわらず、形式的に事故欠勤休職制度を利用して短期間内に原告を被告から放逐し、そのことにより実質上解雇に対する厳格な制約を潜脱することを企図して本件休職処分がなされたものであるから、本件休職処分は無効である。

(4) 仮に原告のような刑事事件による逮捕、勾留のための欠勤が事故欠勤に当るとしても、事故欠勤休職制度は実質上解雇猶予処分の機能と性格とを有しているところから、事故欠勤休職処分に付する場合においては、当該欠勤によって雇用関係を終了させることが妥当と認められる場合あるいは通常解雇が相当な場合であることを要するものである。このように解さないと、かかる休職処分に付することにより、実質上解雇の制約を免れることとなり、著しく不当な結果を招くこととなる。そして、逮捕、勾留による就労不能については、他の一般の自己都合による欠勤と同様に、直ちに通常解雇相当とみることはできない。有罪判決確定以前の段階で、長期勾留による欠勤という客観的状態のみを理由として雇用関係を終了させることは事柄の性質上許されない。

ところで、原告の前記刑事事件の性質、態様はいわゆる破廉恥罪ではなく、三里塚空港反対運動の一環としての正当な目的のある確信犯であり、このことにより被告の職場秩序自体になんら影響を及ぼすものではなく、将来原告が保釈され身柄が解放されさえすれば直ちに就労が可能となるものであること等の事情からみて、有罪判決も確定しないうちに当然に雇用契約を終了させることは到底容認し難いところである。

以上によれば、本件休職処分は右にいう合理的理由を欠いており、無効なものである。

(二) 本件解雇は規則四四条に違反する。

(1) 被告は、規則四四条により本件解雇をなしたものであるが、同条には「解雇する場合は、少なくとも一ヵ月以前に本人に予告するか、あるいは三〇日分以上の平均賃金を支払う。」との定めがあり、同条三号には休職期間の経過を理由とする解雇の定めがあるので、この場合も右の解雇に関する定めが適用されることは規定上明らかである。他方、規則中、即時解雇のできる場合としては懲戒解雇(六五条四号)のみである。

以上によれば、規則上は懲戒解雇の場合以外は即時解雇をなし得ないことになる。

(2) 一般に、就業規則の解雇に関する規定は、労働条件に関する定めであるから法規範としての性質を有し、これに反する解雇は無効となる。

(3) ところで、本件解雇は、休職期間の経過を理由としてなされたものであるが、原告に対し規則に定める予告手当の支払もなく、また予告期間もおかずになされたものであるから、規則四四条に違反し無効である。

(三) 本件解雇は労基法二〇条に違反する。

(1) 被告は、本件解雇をなすに際し、労基法二〇条所定の予告手当の支払もせず予告期間もおいていない。そして、被告は本件解雇が原告の責に帰すべき事由によるものとは主張していない。

(2) 労基法二〇条が予告手当の支払もしくは予告期間をおくことを要求している趣旨は、労働者が新しい職を探す機会を保障し、抜打ち解雇によって突如生活上の脅威にさらされることを防止しようとする趣旨であって、それは単に金銭的保障をすれば足りるとするものではなく、突如解雇されること自体を防止するためである。そして、同条は強行規定であり、予告手当の支払もしくは予告期間をおくことが解雇の有効要件である。

よって、本件解雇は労基法二〇条に違反し、無効である。

(3) これについて、最高裁判所は、昭和三五年三月一一日の判決(細谷服装事件)において、労基法二〇条違反の解雇の効力について、即時解雇としての効力が生じないことを認めながら、使用者が即時解雇を固執する趣旨でない限り、通知後三〇日の期間経過又は予告手当支払のいずれかの時から解雇の効力が発生するとしていわゆる相対的無効説に立つことを明らかにしているが、これによると労基法上の刑罰規定が現実に有効に機能していない現状で、労基法違反を犯した使用者を免責させるに等しい結果となるのみならず、労基法の強行法規性とも矛盾することとなり、労基法二〇条の趣旨を没却するものである。また、これは無効行為の転換理論を使うことになるであろうが、その理論は当事者の意図したところをできる限り達成させるという目的を有しており、解雇の法理への適用はなじまないものである。

(4) 仮に右のいわゆる相対的無効説に立つとしても、被告は即時解雇に固執する意思であった。すなわち、

(ア) 被告は、本件解雇時、単に予告期間をおくことなく、かつ予告手当を支払うことなく本件解雇をしたものではなく、明確に昭和五三年一一月六日付をもって同日に解雇の意思表示を発信している。

(イ) 被告は、原告からの労基法二〇条違反を指摘した抗議に対しても、同条但書を引用して同条但書に該当すると原告に通知し、あくまでも即時解雇を主張し、かつ固執している。

(ウ) 原告が保釈後の昭和五四年五月二九日被告会社に赴いて解雇撤回を要求した際、被告の新野労務担当課長は、前同様予告手当を支払わず、予告期間をおかない本件解雇の有効性を主張して即時解雇を固執している。

(エ) 原告は、同日、右新野に対し就労の意思を表示して労務の提供をなしたが、新野はその受領を拒絶し、以後も同年五月三一日、同年六月七日をはじめ毎日のように原告は被告会社に就労の目的で赴いているが、被告の職制が原告は既に解雇になっているとして原告が被告会社の構内に入ることさえも実力で拒否し続けている。

(オ) 以上の(ア)ないし(エ)から明らかなように、被告はあくまでも即時解雇を固執するものであるから、いわゆる相対的無効説の立場からみても本件解雇は労基法二〇条に違反し、無効である。

(四) 本件解雇は協約三三条但書に違反する。

(1) 本件解雇は休職期間満了による解雇であるが、休職理由である「本人の傷病以外の理由」という要件、効果と起訴休職の要件、効果とを以下のように比較してみると、当然協約三三条但書により休職期間の延長がなされるべきものである。

(2) 規則四〇条には起訴休職に関する規定がおかれているが、その休職期間の定めはなく、したがって「刑事、行政上の訴追を受けたとき」という事由が継続する期間の終了により休職期間が満了することとなるが、この場合、規則四四条三号所定の解職とは直結しない。このことは、規則六八条一四号に有罪の確定判決が懲戒解雇事由として規定されており、規則四〇条三号の起訴休職は右六八条一四号と結びつき、他方規則四〇条一号、二号は規則四一条を媒介として右四四条三号と結びついているという関係からも明らかである。

(3) 協約は規則四〇条三号のような規定を設けておらず、原告のように逮捕、起訴、勾留されて出勤できない場合は、一応形式的には協約三一条二項にいう「本人の傷病以外の理由により一ヶ月以上欠勤した場合」という要件に当たるかにみえるが、このような規則と協約との関係については、第一に、協約が規則の起訴休職制度を廃止したとみる考え方、第二に、規則の起訴休職制度は協約とは別個に存在するとみる考え方の二つがある。

右の第二の考え方によれば、休職期間延長の問題は生じない。すなわち、規則上の起訴休職における休職期間はその事由が存在する限り続くものであって、これに協約によって期間制限をするとなれば、起訴休職が解雇(協約二八条二号、規則四四条三号)に直結することになって、協約が規則の労働条件をかえって低下させることとなり不合理な結果となる。そうすると有利な労働条件を定める規則の規定がその限りで優先するのであるから、原告が保釈によって身柄を解放された昭和五四年五月一八日か、遅くとも被告に赴いた同月二九日には休職事由は消滅したこととなる。また、規則四〇条三号はその期間の休職を規定するのみで解雇とは結びつかないのであるから、解雇事由は存在しないことに帰する。よって、本件解雇は規則四四条三号所定事由なくしてなされたものであり無効となる。

右第一の考え方によれば、規則上の起訴休職は協約三一条二号に包含されることとなるが、この場合にもこれを協約三三条との関連において考えると、起訴休職に当たるような場合、期間制限を付され、その期間経過が解雇に結びつく(二八条)とすれば、協約が規則よりも低い労働条件を定めることとなって不合理である。このような不合理な結果を避けようとすれば、協約三三条の「原則として退職」とか「事情によって休職期間を延長」とかの規定を右の趣旨に合致するように解釈しなければならない。

(4) さらに、本件の場合には次のような事情がある。

第一に、原告は、本件解雇当時いまだ保釈されてはいなかったが、保釈されればいつでも就労できる状態にあり(現実に就労に赴いている。)、かつ、当初から就労の意思を有していた。被告は、組合又は乙山一郎あるいは丙川二郎に問い合わせれば原告の所在が判明することを知りながら、これをなさず、原告の出勤可能性を検討したこともない。他企業においては、起訴休職処分に付され、保釈後右処分が撤回されている例がある。

第二に、原告は、組合を通じて被告に対し、休職期間の延長を申し入れている。

第三に、従来事故欠勤一か月という理由で休職処分を受けたという例はなく、原告がはじめてである。

(5) 以上の点からみると、協約三三条但書による休職期間の延長がなされるべきであったにもかかわらず、被告はこれをなさず、これは協約三三条但書違反であり、したがって、いまだ休職期間は満了しておらず、協約二八条二号、規則四四条三号の解雇事由は存在していない。

五  原告の反論に対する被告の認否、反論

1  原告の反論(一)の事実中、原告主張のような協約、規則の定めがあることは認めるが、その余の事実は否認し、その主張は争う。

被告が本件休職につき、原告を起訴休職としないで事故欠勤による休職としたのは、次のような理由によるものである。すなわち、休職は、労働者が労働することができないか、労働者をその業務に就かせることができない場合に、その労働者に従業員たる地位を保有させながら労働しないことを認め、又はその業務に就かせないという制度である。したがって、原告が一か月にわたって事故欠勤を続け、現実に労務を提供しない以上、被告がこれを理由に原告を休職にしたことは、もとより正当である。起訴休職は、労働者が起訴されても、逮捕、勾留されることなく就労が可能である場合において、当該労働者を就労させることが不適当であれば、休職させることができるというものであって、原告の就労が不能であった本件において、起訴休職を選択しなければならないとする理由はない。

なお、労務の提供は労働契約に基づく労働者の基本的義務であって、三か月ないし六か月という長期にわたってこれを履行しないときは、使用者は当該労働者を解雇することができるものである。

2  同(二)の事実中、原告主張のような規則の定めがあることおよび被告が本件解雇をなすに際し、規則四四条所定の予告期間をおかず、また予告手当の支払もしなかったことは認めるが、その主張は争う。

3  同(三)の事実中、被告が本件解雇をなすに際し、労基法二〇条所定の予告期間をおかず、また予告手当の支払をしなかったことは認めるが、その余の事実は否認し、その主張は争う。

4  同(四)の事実中、原告主張のような協約、規則の定めのあること、原告が本件解雇時においても勾留中であったことおよび原告が組合を通じて被告に対し休職期間の延長を申し入れてきたことは認めるが、その余の事実は否認し、その主張は争う。

被告が本件休職期間の延長をしなかったのは、原告がその責に帰すべからざる事由を明らかにすることなく(客観的にはその責に帰すべき事由により)欠勤を続けて労務を提供することなく、昭和五三年一一月六日に至ったものであるから、当然のことであり、なんら違法ではない。

六  被告の反論に対する原告の認否

被告の反論する主張は争う。

第三証拠《省略》

理由

請求の原因1の事実は、原告が昭和五三年一一月八日以降も被告の従業員であるとの点を除いて、当事者間に争いがない。

(本件休職処分について)

一  次の事実は当事者間に争いがない。

1  原告は、昭和五三年三月二三日、被告に対し、同月二七日から三一日までの五日間の年次有給休暇届を提出してその間欠勤したが、その間の同月二六日、成田空港の開港を阻止する闘争に参加し、その際公務執行妨害等の現行犯として逮捕され、引続いて勾留され、さらに同年四月一六日、公務執行妨害罪等の公訴事実により起訴され、その後も引続いて勾留されるに至ったため、欠勤を続けた。その間の同年四月三日、原告から被告に対し、「休暇届」と題し、「四月三日より」とだけ記載した書面が提出された。被告は、当時、原告になお二日間の年次有給休暇の権利があることを考慮して同月三日、四日を年次有給休暇扱いとしたが、同月五日以降は規則四〇条二号所定の事故欠勤として取扱った。

2  被告は、原告が同年四月六日以降も欠勤を続けたので、それから一か月を経過した同年五月六日、協約三一条二号(規則四〇条二号)に定める「本人の傷病以外の理由により一ヶ月以上欠勤した場合(「事故によって連続欠勤三〇日をこえたとき」)に該当するものとして原告を同年一一月六日まで休職とした(本件休職処分)。

3  被告は、本件休職処分につき、原告に対しその旨の示達をしていないが、規則四〇条但書には、本件のような事故欠勤による休職の場合には、改めて本人に休職の示達をしない旨規定されている。

二  原告は、被告が原告に対し本件休職処分の示達をしていない以上、同処分は効力を生じないものであると主張するのでこの点について検討する。

協約三一条が休職に関する定めをしており、その規定が「休職を命ずる」となっていること、協約三一条二号(ロ)において、傷病以外の理由により一か月以上欠勤した場合、勤続三年以上の者については休職期間を六か月とする旨規定していること、協約三二条において、休職期間中に休職事由が消滅した場合には、ただちに「復職させる」旨規定していること、規則四一条において、休職期間中は無給とする旨規定していることおよび規則四四条三号において、休職期間が経過したときは解雇する旨規定していることは、いずれも当事者間に争いがない。

以上によれば、休職は被告において所定の休職事由があれば一方的に命ずることのできるものであり、その期間中は無給で、かつその期間経過により解雇という従業員にとっては極めて重大な結果に結びつくものであるということができ、また復職についても単に休職事由の消滅だけでは足りず被告の復職を命ずる行為が必要であるが、規則四〇条但書において事故欠勤による休職の場合には改めて本人に休職の示達をしない旨定めているのは、従業員が被告に何らの届出もないままに行方不明となって欠勤を続けるような場合において、被告が事故欠勤による休職を命じようとしても、当該従業員に対しその旨の示達をしない限りその効力が生じないものとしたのでは、被告において休職を命ずることが不可能となること等を考慮してかかる規定を設けたものと解することができ、必ずしも合理性を欠く規定ということができないばかりでなく、かかる規定をおいている規則の性格上従業員としてはこれを知ることができるものであり、現に原告も、《証拠省略》によれば、被告に入社した際規則の交付を受け、当時これを読んでいることが認められ、右認定に反する証拠はない。そして、前示のとおり、原告は本件休職処分がなされた当時勾留されていて、被告に対しては「四月三日より」とだけ記載した休暇届と題する書面が提出されただけであって、《証拠省略》によれば、被告としては当時原告の所在を確知し得なかったことが認められ(る。)《証拠判断省略》なお、原告は、昭和五三年一〇月、組合を介して被告に対し、本件休職期間の延長を要求していることは当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、原告は、同年六月初めころ、本件休職処分を知ったことが認められ、右認定に反する証拠はなく、また《証拠省略》によれば、規則四〇条は休職に関する規定であり、そこで「休職とする」旨定めていることが認められ、右認定に反する証拠はない。

以上を総合すると、被告が本件休職処分につき、その旨原告に示達しなかったことは規則四〇条但書に基づくものであるが、同条但書は合理的理由のあるものであってこれを無効とすべきものではなく、他方原告においてもかかる規定のおかれていることは予め知りうる機会があり、また当然知っておくべきであったということができ、これに前示の事実関係を併せ考えると、本件休職処分につきその旨の示達のなかったことをもって本件休職処分の効力が生ぜず、これが無効であるということはできないものというべきである。よって、この点に関する原告の主張は採用できない。

三  原告は、刑事事件による逮捕、勾留のため就労不能となった場合は規則四〇条二号にいう「事故によって」欠勤した場合には該当しないと主張するのでこの点について検討する。

《証拠省略》によれば、規則四〇条は休職について規定し、一号は「業務外の傷病によって六ヶ月以上欠勤したとき」、二号は「事故によって連続欠勤三〇日をこえたとき」、三号は「刑事、行政上の訴追を受けたとき」、四号は「公職につき、従業員としての勤務と両立しないとき」、五号は「組合業務専従者となったとき」、六号は「出向者」をそれぞれ休職事由として休職とする旨規定していることが認められ、右認定に反する証拠はない。そして、前示のとおり原告は、昭和五三年三月二六日、成田空港の開港を阻止する闘争に参加し、その際公務執行妨害等の現行犯として逮捕され、引続いて勾留され、同年四月一六日、公務執行妨害罪等の公訴事実により起訴され、その後も引続いて勾留されていたため、本件休職処分のなされた当時においても欠勤を続けていたものであり、《証拠省略》によれば、原告はその後右により第一審において有罪判決を受け、現在控訴中であることが認められ、右認定に反する証拠はない。

以上によれば、特に右の逮捕、勾留を違法、不当とする特段の事情の認められない本件においては、原告の右欠勤は原告の責に帰すべき事由によるものというべきであり、規則四〇条に定める休職事由のうち、二号に定める事故欠勤に該当するものと認めるを相当とする。よって、この点に関する原告の主張は採用できない。

四  原告は、原告の就労不能事由の性格、規則四〇条の定める各休職処分の性格等からみて、原告の場合には同条三号所定の起訴休職とすべきであると主張するのでこの点について検討する。

原告の欠勤の事情は前示のとおりであり、規則四〇条が各休職処分を規定し、事故欠勤による休職のほか起訴休職についても定めていることは前認定のとおりであり、《証拠省略》によれば、協約、規則において、起訴休職の場合、休職期間を定めておらず、したがって、その期間の経過による解雇についても定めていないことおよび休職期間はその二分の一を勤続年数に通算する旨定めている(規則四二条)こと、これに対し事故欠勤による休職の場合には、その勤続年数に応じた休職期間(勤続三年未満の者は三か月、同三年以上の者は六か月)を定め(協約三一条二号、規則四一条二号)、休職期間が経過したときは解雇する旨定めている(協約三三条、規則四四条三号)ことが認められ、右認定に反する証拠はない。

右によれば、同じ休職であっても、事故欠勤による休職と起訴休職とでは大きな相違があり、従業員にとっては後者が利益であることは明らかであるが、原告の場合には事故欠勤による休職事由に該当するものであることは前認定のとおりであり、これと並んで起訴休職が定められているところからみると、起訴休職の場合とは身柄の拘束(勾留)を受けずに刑事訴追を受けているような場合の休職であると解するを相当とし、仮に原告の場合には、同時に起訴休職事由にも該当するとしても、被告において事故欠勤による休職と起訴休職のいずれを選択するかはその裁量に委ねられており、その裁量の範囲をこえるか、これを濫用したとみられるような不合理なものではない限り右の選択を無効ということはできないものというべく、本件においては右にいう裁量の誤りを肯認するに足りる証拠はない。よって、この点の原告の主張は採用できない。

五  原告は、事故欠勤による休職については、それが解雇に結びつくところから解雇を相当とする事由がない限り右休職を命ずることはできないと主張するのでこの点について検討する。

事故欠勤による休職の場合、所定の休職期間が経過すると解雇する旨規則に定められていることは前認定のとおりであるが、もともと解雇と事故欠勤による休職とは別個のものであり、そのそれぞれについて休職事由(規則四〇条)、解雇事由(規則四四条)が定められていることは前認定のとおりであるから、事故欠勤による休職について解雇を相当とする事由がなければならないということはできないものというべきであり、また原告がいかなる思想、信条に基づいて行動したとしても、それが現行法規に違反し、逮捕、勾留されて刑事訴追を受け、これによって欠勤を続けているものである以上、右の逮捕、勾留を違法、不当とする特段の事情が存しない限り(本件においてはかかる事情の存しないことは前示のとおりである。)、右の結論を左右しうるものではないというべきである。よって、原告のこの点に関する主張は採用できない。

(本件解雇について)

規則四四条三号(協約三三条)において、事故欠勤によって休職となり、六か月の休職期間が経過したときは、被告は休職中の従業員を解雇する旨規定していること、そして、原告が昭和五三年五月六日以降も協約三一条二号(ロ)(規則四一条二号(2))に定める休職期間である六か月を経過しても欠勤を続けたため、被告が規則四四条三号により同年一一月七日原告に到達した内容証明郵便により原告を解雇する旨の意思表示をした(本件解雇)ことは当事者間に争いがない。

一  原告は、本件解雇は規則四四条に違反すると主張するのでこの点について検討する。

規則四四条に解雇する場合は、少なくとも一か月以前に本人に予告するか、あるいは三〇日分以上の平均賃金を支払う旨の規定があり、同条三号において休職期間の経過による解雇を定めていること、また規則六五条が懲戒解雇に関する定めをしていることおよび被告が本件解雇をなすに際し、右規則に定める予告手当を支払わず、また予告期間をおかなかったことは当事者間に争いがない。

右によれば、本件解雇は規則に定める解雇手続に違反するものであり、右手続が労基法二〇条に定める解雇手続以上のものであるか否かにかかわらず(この点については後に判断する。)、被告がみずから定めた解雇に関する重要な手続に違反するものであって、その限りにおいて解雇の効力を生じないものと解するを相当とする。しかしながら、被告が本件解雇につきいわゆる即時解雇を固執せず、本件解雇の本旨が即時であると否とを問わず、原告の事故欠勤による休職期間の経過を理由として、原告を解雇しようとするにあたって、即時の解雇が認められない以上解雇する意思がないというものでない限り、解雇の意思表示をして後一か月を経過するか、被告が原告に対し所定の解雇予告手当を支払ったいずれかの時点において解雇の効力が生ずるものと解すべきところ、《証拠省略》によれば、被告は必ずしもいわゆる即時解雇を固執しているものではなく、本件解雇の意思表示をして後一か月を経過した昭和五三年一二月七日解雇の効力が生じたものとしており、そのために昭和五五年八月二八日、右により解雇の効力が生じた日までの未払賃金として金一一万六三三円を弁済供託していることが認められ、《証拠省略》によって認められる本件解雇後における本件解雇に対する原告らの抗議に対し、被告が既に解雇の効力が生じているものとして対応したことをもって右認定を左右することはできず、また、本訴における被告の応訴態度からも右認定を左右することができず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

以上によれば、本件解雇は規則四四条に違反し、いわゆる即時解雇の効力を生ずるものではないが、その効力が解雇の意思表示をして後一か月を経過した時点において生ずるものとしては有効であるということができ、この点に関する原告の主張は採用できない。

二  原告は、本件解雇は労基法二〇条に違反し無効であると主張するのでこの点について検討する。

労基法二〇条一項本文にいう解雇は、使用者の一方的意思表示により雇用関係を終了させるものをいい、同項の適用除外は同項但書と同法二一条に定める場合に限られるものと解されるところ、本件解雇は事故欠勤による休職期間(六か月)の経過を事由とするものであること前示のとおりであり、かつ本件休職処分が相当であることは本件休職処分についての判断三において説示のとおりであるから、本件解雇は同法二〇条一項但書にいう労働者の責に帰すべき事由に基づく解雇であると認めるを相当とする。

ところで、被告が本件解雇につき同法二〇条三項所定の労働基準監督署長の除外認定を受けていないことは被告の自認するところであるが、右認定は使用者の恣意的判断を規制するためのものであって、解雇の効力要件ではないものと解するのが相当であるから、右認定の有無をもって解雇の効力を左右し得ないものというべきである。

以上によれば、本件解雇については労基法二〇条一項本文に定める解雇予告期間をおかず、また解雇予告手当の支払がなくとも、解雇の効力に関する限りにおいては有効なものというべきである。よって、原告のこの点に関する主張および右労基法二〇条一項但書の適用がないことを前提とするその余の主張は採用できない。

三  原告は、本件解雇は休職期間の延長を定める協約三三条但書に違反すると主張するのでこの点について判断する。

協約三三条がその本文において協約三一条一号、二号所定の休職期間が経過したときは原則として解雇する旨、その但書において事情によって休職期間を延長することがある旨定めていることおよび協約三一条が規則四〇条三号に定めるような起訴休職について規定していないことは当事者間に争いがない。

ところで、原告が休職期間延長の事情として主張するところは、起訴休職と事故欠勤による休職とに関する協約、規則の規定とその解釈および原告に就労意思のあること等であるが、協約、規則における事故欠勤による休職と起訴休職に関する定めは本件休職処分についての判断四において認定のとおりであり、被告が起訴休職ではなく事故欠勤による休職を命じたことが相当であることは本件休職処分についての判断三、四において説示のとおりであり、右両休職に関する協約、規則の規定の相違をもって当然に協約三三条但書を適用して事故欠勤による休職期間を延長すべきものということはできず、また原告に就労する意思があることをもって当然に休職期間を延長すべきであるということもできず、さらには原告に就労意思の有無を問い合わせる義務が被告にあるということもできないものというべきである。よって、この点に関する原告の主張は採用できない。

(結論)

以上説示のとおり、本件解雇は原告主張の無効事由がなく有効であり、これが無効であることを前提とする原告の本訴請求はその余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 渡邊昭)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例